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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)4151号 判決 1972年1月22日

原告

木村こと崔甲俊

被告

徳島通運株式会社

主文

被告は、原告に対し、金一、一六九、一〇〇円およびこれに対する昭和四五年八月一九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告は、原告に対し、金五、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四五年八月一九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言。

(被告)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二請求の原因

一  事故

原告は、次の交通事故により傷害および物損を受けた。

(一)  日時 昭和四四年五月二三日午前三時五〇分ごろ

(二)  場所 枚方市田の口二三一番地先道路上

(三)  加害車 大型貨物自動車(徳一い二一一三号)

右運転者 柴田勝一

(四)  被害車 大型貨物自動車

右運転者 原告

(五)  態様 原告が被害車を駐車してパンク修理中に加害車が追突し、原告をはねとばした。

二  責任原因

(一)  運行供用者責任

被告は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していた。

(二)  使用者責任

被告は、自己の運送業のため柴田を雇用し、同人が被告の業務の執行として加害車を運転中前方を注視するべき注意義務を怠り、脇見又は居眠り運転をした過失により、本件事故を発生させた(傷害による損害については(一)の主張が認められないときに予備的に主張する)。

三  損害

原告は、本件事故により、次の損害を蒙つた。

(一)  休業損害 二、七三四、九〇〇円

原告は、本件事故により、頭部外傷第二型、後頭部挫傷、頸椎捻挫、左骨部挫傷、右上肢挫傷の傷害を受け、昭和四四年五月二三日から同月末日まで有沢第二病院に、同月三一日から同年六月二七日まで熊野クリニツクに、同日から同年九月一日まで青山病院にそれぞれ入院し、その後通院を続けているが、頭痛、めまい、吐気の症状が残つている。原告は、事故当時四七才で、運送下請業を営み、月収三九〇、七〇〇円を得ていたが、本件事故による受傷のため、昭和四四年六月から同年一二月まで七ケ月間休業を余儀なくされ、一ケ月三九〇、七〇〇円の割合による七ケ月分合計二、七三四、九〇〇円の収入を失つた。

(二)  慰藉料 一、〇〇〇、〇〇〇円

原告は、運送下請業を断念せざるを得なくなり、昭和四五年七月から稼働し始めたが、自動車の運転は勿論、他の仕事も十分できない状態にある。

(三)  自動車破損による損害 一、四四二、五二〇円

原告は、大阪三菱ふそう自動車販売株式会社から昭和四四年三月に被害車を部品代も含めて代金三、九一四、五二〇円で購入して古紙類の運送下請を始めたが、本件事故のため営業継続が不可能となり、右自動車を右会社に二、四七二、〇〇〇円で引取つてもらわざるをえなくなつたから、その差額一、四四二、五二〇円相当の損害を蒙つた。

(四)  弁護士費用 五〇〇、〇〇〇円

(五)  損害の填補 六六〇、〇〇〇円

原告は、被告から本件事故による損害賠償として六六〇、〇〇〇円の支払を受けた。

四  よつて原告は、被告に対し、前記三(一)ないし(四)の合計金五、六七七、四二〇円から前記三(五)の金六六〇、〇〇〇円を控除した金五、〇一七、四二〇円の内金五、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四五年八月一九日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁および主張

一  請求原因第二一の事実は認める。第二二の事実中(一)の事実は認める。(二)の事実中柴田の居眠り運転の事実は否認するが、その余の事実は認める。第二三の事実中(一)ないし(四)の事実は不知。(五)の事実は認める。

二  原告は、被害車のスペアタイヤ取りはずしのために、同乗者とともに自動車の下に入つていて、故障によつて停車していることを後続車に知らせるべく赤ランプをふるなど危険防止のための措置を構ずべき義務を怠つたものであるから、本件事故発生については原告にも過失があつたものというべきである。

三  被告は、原告に対し、被害車の修理費九二、六五二円を支払つた。

第四被告の主張に対する原告の認否および主張

一  被告主張の第三二の事実は否認する。第三三の事実は認める。原告は、被害車の右前輪がパンクしたので道路の左側に寄せて停車し、尾灯および右の方向指示器をつけて左側のスペアタイヤを取りはずすため、上半身を車体の下に入れ、助手の高林忠夫はそばでマツチをすつて照明していたものであり、原告には過失はなかつた。

第五証拠〔略〕

理由

一  事故

請求原因第二一の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

(一)  運行供用者責任

請求原因第二二(一)の事実は当事者間に争いがないから、被告は、加害車の運行供用者として原告に対し、本件事故によつて原告が傷害を受けたことによる損害を賠償するべき義務がある。

(二)  使用者責任

被告は、自己の運送業のため柴田を雇用し、同人が被告の業務の執行として加害車を運転中前方を注視するべき注意義務を怠つた過失により本件事故を発生させたことは当事者間に争いがないから、被告は、柴田の使用者として原告に対し、自動車破損によつて生じた損害を賠償するべき義務がある。

三  損害

(一)  休業損害 一、一二九、一〇〇円

〔証拠略〕を綜合すると、原告は、本件事故により、頭部外傷第二型、頸椎捻挫、後頭部挫傷、左背部挫傷、右上肢挫傷の傷害を受け、昭和四四年五月二三日から同月三一日まで有沢病院に、同日から同年六月二七日まで熊野クリニツクに、同日から同年九月一日まで青山病院にそれぞれ入院し、同月二日から昭和四五年六月二二日までに五七日間同病院に通院して治療を受けたが、時々目まい、吐気がする症状が固定したこと、原告は、事故当時四七才で、昭和四四年四月三日に代金三、七〇〇、〇〇〇円で被害車を購入し、自らこれを運転して双葉商会の専属の運送下請業を始め、同月および同年五月の二ケ月間に一、二九〇、四〇〇円の運送代金収入を得たこと、原告は、右運送業のため助手として高林忠夫を月給八〇、〇〇〇円で雇用し、自動車の燃料費として二ケ月間で一四九、三〇〇円を支払つたが、ほかにも運送の途中で随時燃料を購入していたこと、原告の右運送業の必要経費としては、右人件費および燃料費のほかにも自動車の減価償却費、修理費、タイヤ、チユーブ等の取替費、自動車の保険料等があり、自動車の耐用年数は四年位と考えられ、原告の純益は運送代金収入の二五パーセント程度であること、原告は、本件事故による受傷のため、昭和四四年六月から同年一二月まで七ケ月間は休業を余儀なくされ、その間全く収入を得られなかつたことが認められ、右認定を左右しうべき証拠はない。以上の事実によれば、原告の休業による損害は別紙計算書(1)記載のとおり合計一、一二九、一〇〇円となる。

(二)  慰藉料 六〇〇、〇〇〇円

前記三(一)の原告の傷害の部位、程度、治療の経過および期間、後遺症の内容、程度を合わせ考えると、原告が本件事故によつて蒙つた精神的損害に対する慰藉料額は六〇〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

(三)  自動車破損による損害

〔証拠略〕を綜合すると、原告は、昭和四四年四月三日ごろ、大阪三菱ふそう自動車販売株式会社から新車である被害車を代金三、七〇〇、〇〇〇円、保険料二一四、五二〇円合計三、九一四、五二〇円を月賦で支払う約定で購入したこと、原告は、本件事故により被害車が破損したので、これを修理し、その修理費に九二、六五二円を要したこと、被告は、右修理費九二、六五二円を支払つたこと(このことは当事者間に争いがない)、原告は、その後被害車の月賦代金が支払えなくなつたので、同年八月ごろ右自動車をその修理後の査定価格二、四七二、〇〇〇円で右会社に引渡したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

原告は、被害車の購入価格三、九一四、五二〇円から右査定価格二、四七二、〇〇〇円の差額一、四四二、五二〇円が本件事故による損害である旨主張するが、右認定の事実によれば、原告が右会社に被害車を引渡さざるを得なくなつたのは、被害車が破損したためではなく、原告が被害車を代金月賦払の約定で購入しながらその代金を支払わなかつたためであり、右代金を支払えなくなつたのは本件事故による受傷のため原告が収入を得られなくなつたことがその一因となつているとしても、右自動車返還と本件事故との関係は間接的なものにすぎず、事故と相当因果関係の範囲内とみることはできないのみならず、被害車の査定価額が購入時の価額より低額となつているのは新車として購入した自動車を二ケ月位運送営業に使用したことによるものであつて、必ずしも事故によつて自動車が破損したことによるものということはできないと考えられるから、右購入価額と査定価額との差額を本件事故によつて生じた損害ということはできず、被害車の破損による損害は被告からの修理費用の支払によつて既に填補されているものというべきであるから、原告の右主張は理由がない。

(四)  過失相殺

〔証拠略〕を綜合すると、本件事故現場は南北に通ずる直線道路で、右道路には中心線が設けられていて、北行、南行ともに幅各三・五メートルの二車線ずつの通行区分帯が存し、道路の東側および西側は道路より〇・九メートル低い田となつており、事故当時は附近は夜明けの直前で前照灯をつけなくても運転できる程度に明るくなつていて、交通量は閑散としており、前方の見通しはよい状況であつたこと、柴田は、前照灯をつけて加害車を運転して北から南に向つて東端の車線を時速約五五キロメートルで進行中、一瞬居眠りをして前方注視をしていなかつたために、全くハンドルおよびブレーキの操作をすることなく、右道路の東端に南向に駐車中の被害車の後部に加害車の前部を追突させて始めて衝突に気づいたこと、原告は、被害車を運転して北から南に向つて進行中事故現場附近で右前輪のタイヤがパンクしたので、道路の東端一杯に寄せ、中心線と被害車の右側面との間隔を約四・六五メートルあけて駐車し、尾灯と右側の方向指示器をつけたうえ降車し、後部左側から上半身を車体の下に入れてスペアタイヤをはずす作業を始め、被害車に助手として同乗中の高林忠夫が原告の横で原告の手元を照明するためマツチをすつていた際に本件事故が発生したことが認められ、右認定に反する証拠はない。以上の事実によれば、本件事故は柴田の居眠り運転が原因であつて、原告には、前記の状況の下で事故防止のために助手をして赤ランプを振らせるなどの措置までをとるべき義務があつたものということはできず、原告としては、被害車を道路の東端一杯に寄せて駐車し、尾灯および右側の方向指示器をつけていた以上、原告の損害額の算定についてしんしやくすべき過失があつたものとすることはできない。

(五)  弁護士費用 一〇〇、〇〇〇円

本件事案の性質、審理の経過および認容額に照らし、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求めうるべき弁護士費用額は一〇〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

(六)  損害の填補 六六〇、〇〇〇円

原告は、被告から本件事故による損害賠償として六六〇、〇〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

四  従つて原告は、被告に対し、前記三(一)、(二)、(五)の合計金一、八二九、一〇〇円から前記三(六)の金六六〇、〇〇〇円を控除した金一、一六九、一〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四五年八月一九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めうるものであるが、原告のその余の請求は理由がない。

よつて原告の請求は主文第一項掲記の限度でこれを認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山本矩夫)

計算書

(1) 原告の休業損害

1290400×1/2×25/100×7=1129100

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